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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)124号 判決

原告 日本第一石油有限会社

被告 通商産業大臣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六一年七月一四日付けでした原告の特定石油製品輸入事業の登録の申請を拒否する旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、石油製品の輸入及び販売等を目的とする会社である。

2  本件処分

原告は、昭和六一年六月二五日、被告に対し、特定石油製品輸入暫定措置法(以下「特石法」という。)三条に基づき、揮発油について輸入事業の登録の申請(以下「本件申請」という。)をしたが、被告は、同年七月一四日付けで、原告が同法五条一号及び三号の規定に適合しないとの理由で右申請に係る登録を拒否する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  特石法五条一号、三号の違憲性

(一) 特石法三条は、特定石油製品(揮発油、灯油及び軽油の三種類の石油製品を指す。以下同じ。)について輸入の事業を行おうとする者は、通商産業省令で定めるところにより、特定石油製品の種類ごとに、通商産業大臣の登録を受けなければならないと規定し(以下、右規定に係る登録制度を「本件登録制度」という。)、同法五条は、同大臣は、同法三条の登録の申請につき、〈1〉申請に係る特定石油製品の輸入量が変動した場合にその他の石油製品(石油業法二条二項参照)の生産量に影響を及ぼすことなく当該特定石油製品の生産量を変更するために必要な設備として通商産業省令(特石法施行規則別表第一)で定める設備(以下「石油精製設備」という。)を有すること(特石法五条一号。以下「一号要件」という。)、〈2〉申請に係る特定石油製品若しくは原油を貯蔵するために必要な施設であって通商産業省令(特石法施行規則三条二項)で定める基準に適合するもの(以下「貯蔵設備」という。)を有すること又はこれに準ずるものとして通商産業省令(同規則三条三項)で定める要件に適合する措置が講じられていること(特石法五条二号。以下「二号要件」という。)、〈3〉申請に係る特定石油製品で輸入されるものについてその品質を調整し当該特定石油製品の使用者の需要に適合させるために必要な設備として通商産業省令(特石法施行規則別表第二)で定める設備(以下「品質調整設備」という。)を備えていること(特石法五条三号。以下「三号要件」という。)、以上に適合すると認めるときは登録をしなければならないと規定する。

(二) 本件登録制度は、特定石油製品輸入事業の登録を受けなければ同事業を行うことができないとするものであるから、実質的には許可制と異なるところのない規制立法であるところ、右制度は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制に止まらず、憲法二二条一項で保障する職業選択の自由そのものに制約を課するものであるから、その採用自体についてはもとより、その内容となる個々の登録要件についても、その合憲性を肯定し得るためには、公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要する。

しかし、以下のとおり、一号要件を定める特石法五条一号及び三号要件を定める同条三号はいずれも違憲無効な規定である。

(三) 特石法五条一号の違憲性

(1) 一号要件の制定理由は、ある種類の特定石油製品の輸入が増大した場合に、それに合わせて当該特定石油製品の国内生産量を減少させることになると、原油精製量が減少することになるが、石油製品が連産品であることから、他の石油製品の国内生産量の減少をもたらすことになり、また、石油製品貿易市場が未成熟であることから、輸入が途絶する場合があり得るところ、このような事態が生ずると、一部の石油製品について供給不足となるばかりでなく、価格の急騰を招き、石油製品全体の安定供給が害され、国民経済に大きな混乱を引き起こすことが予想されるので、得率を調整して原油を精製することによって減産となる石油製品の生産量を増やすという能力(以下「得率調整能力」という。)及び途絶した輸入品分を代替生産する能力(以下「代替供給能力」という。)が必要であるから、特定石油製品輸入業者に右各能力を持つ石油精製設備を有することを求めるものである、というものである。

しかし、特石法一二条二項、石油業法一二条三項、一〇条二項に基づく輸入計画の変更勧告及び特石法一二条二項、石油業法二一条に基づく事業報告の徴収に基づいて行われる輸入量の調整、石油精製技術の向上及び市場メカニズムによる石油産業自体の自動調整機能、代替エネルギーへの転換により、あるいは、需要に応じて不足する石油製品を別途輸入することにより、国内の石油製品の安定供給を保つことができるから、特石法制定当時においても、また近い将来(少なくとも同法附則二条により同法が廃止される昭和七一年三月三一日までの間)においても、右で予想されるような事態が生じる可能性はないか、仮にあってもその可能性は小さいものでしかない。ちなみに、原告の揮発油の輸入予定量は月当たり一〇〇〇キロリットルであり、国内の揮発油生産量(昭和六〇年度は三五九七万キロリットル)に比べても微々たるものであり、到底右で予想されるという事態が生ずるおそれはないというべきである。したがって、右で予想されるという事態の発生を前提として一号要件の必要性、合理性を論ずるのは失当である。

(2) 一号要件は、特定石油製品輸入業者に石油製品の生産調整のため石油精製設備の所有を求めるが、法律上、生産調整の実効性を確保するための定めはなく、石油精製設備の稼働及びその前提となる原油等の輸入は個々の特定石油製品輸入業者の自主的な判断に委ねられている。しかるに、特定石油製品輸入業者は個々別々に特定石油製品の輸入を行うのであるから、当該輸入が当該特定石油製品輸入業者以外の者が行う石油製品の生産にどれだけの影響を及ぼしたか、また当該特定石油製品輸入業者においてどの程度の生産調整をする必要があるのかは知りようがない。このように、法律的にも実際的にも生産調整の実効性が確保されない状況の下で石油精製設備の所有だけを求める一号要件の合理性は見い出し得ない。

(3) 一号要件で予定されている生産調整は、石油精製設備を用いて原油を精製し、石油製品を製造するというものであり、これは石油精製業を行うことを前提とするものである。ところで、石油精製業を行うには、石油業法四条により通商産業大臣の許可を要し、また、石油精製設備を新設、増設、改造するについても同法七条により同大臣の許可を要するのであるが、石油精製設備は現在設備過剰の状態にあり、新規に石油精製業の許可が出る可能性がない状況にある。さらに、石油精製業はいわゆる装置産業であり、石油精製設備は一定規模以上のものにならざるを得ず、その建設、操業、維持には膨大な資金を要するものである。このような状況において現実に一号要件に適合し得る者としては、現在石油精製業の許可を受けている別紙精製業者一覧表記載の業者(いわゆる石油元売業者といわれているもの。以下「既存精製業者」という。)以外に存在しないことになるから、一号要件は、既存精製業者以外の者に対して特定石油製品輸入事業への新規参入を不可能にし、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させるものである。ちなみに、現在特定石油製品輸入事業の登録を受けている者は、既存精製業者の一部(右別紙の「特定石油製品輸入業者の登録状況」欄に特定石油製品の種類ごとに○印を付した業者)だけに限られており、他に同登録を受けている者はない。

既存精製業者にとり、特定石油製品の輸入業務と自ら行う国内での精製業務とは利益が相反する関係に立つものであるから、既存精製業者が特定石油製品輸入事業を独占する現状では特定石油製品の輸入が促進される状況になるはずはない。また、海外で生産された特定石油製品と国内で生産された当該特定石油製品の価格とを比較すると前者の方がかなり安く、特に揮発油については価格差が顕著であるところ、安い特定石油製品を輸入してこれを国内で販売すれば、特定石油製品の国内市場がより競争的なものになって、特定石油製品の価格水準を押し下げることになるが、既存精製業者が特定石油製品の輸入を独占する結果、安価な輸入品がそのまま流通されずに国内生産品と一律価格で販売されて、既存精製業者が特定石油製品の輸入差益を独占する一方、一般消費者は安価な特定石油製品を購入する利益を奪われている。

このように、一号要件は、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させるものであることから、特定石油製品の円滑な輸入を進めるという特石法の目的に反する状況をもたらし、一般消費者の利益を犠牲にして既存精製業者に対して積極的に特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与するものであり、その不合理性は著しい。

(4) 以上のとおり、一号要件は、石油製品の安定供給を害さないで特定石油製品の輸入を円滑に進めるための規制措置である本件登録制度の要件としての必要性、合理性がなく、同要件を定める特石法五条一号は、職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に違反する違憲無効な規定である。

(四) 特石法五条三号の違憲性

(1) 三号要件の制定理由は、国内の品質基準に適合しない特定石油製品(特に揮発油)が輸入され、それが国内に出回れば害悪が発生する恐れがあるので、これを防止するため当該特定石油製品の品質を国内の品質基準に適合させる能力(以下「品質調整能力」という。)が必要であるとの理由から、特定石油製品輸入業者に品質調整設備を有することを求めるものである、というものである。

(2) 右の制定理由によれば、三号要件は、石油製品を安定供給する等の需給関係調整のためのいわゆる積極的・社会経済政策的目的のための規制に係るものではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するためのいわゆる消極的・警察的目的のための規制に係るものであるというべきである。そうすると、三号要件が合理性あるといえるためには、右(1)の害悪発生防止のための要件として必要最小限度のものを定めたものであって、他のより緩やかな要件によっては右規制目的が達成できない場合でなければならない。

しかるに、石油製品の品質確保については、税関手続上、輸入の段階で品質の検査が行われ、国内基準への適合の有無がチェックされる仕組みになっている上、揮発油については、揮発油販売業法により、揮発油販売業者に対し、揮発油の規格として通商産業省令で定めるものに適合しない物を燃料用揮発油として販売することを禁止し(一三条)、また揮発油の分析義務を課し(一六条)、右に違反した場合には営業停止あるいは揮発油販売業の登録取消し(一一条)を規定するなど、販売段階での揮発油の品質規制をしているが、輸入される揮発油についても国内で販売するには右の揮発油販売業法の各規定による品質規制がされることになる。他の特定石油製品については、法律上は国内販売の段階における品質規制がされておらず、行政指導による品質規制が行われているだけであるが、国内においても法的な品質規制をしていない石油製品について、輸入品についてのみ品質の粗悪を理由として法的に規制することは、それ自体不合理であるし、規制するとしても、右に述べた揮発油の場合と同様に販売段階で品質規制をすることによって右(1)の規制目的を達成し得るものである。

したがって、右(1)の規制目的を達成するために特定石油製品輸入業者に対し品質調整設備を所有させる必要性も合理的理由もない。

(3) 特定石油製品輸入事業を行う者が品質調整設備を有していても、特石法では、「通商産業大臣は、特定石油製品輸入業者が輸入した特定石油製品で販売しようとするものの品質が当該特定石油製品の使用者の需要に適合していないと認めるときは、当該特定石油製品輸入業者に対し、その輸入に係る特定石油製品の品質の確保に関し必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」と規定している(九条)だけで、直接特定石油製品輸入業者に対して品質調整設備を用いて輸入した特定石油製品の品質を調整させ、国内の品質基準の確保を図ることについては何ら規定がない。そうすると、特定石油製品輸入業者は、品質不適合の特定石油製品を輸入し、そのまま販売することが可能な状況にあり、右(1)の規制目的を十分に達成することができない。

また、海外で生産される特定石油製品の中には日本の品質基準に適合したものがあり、原告は、日本の品質基準に適合する品質の揮発油だけを輸入することを予定しているが、このような輸入業者には品質調整設備の所有を求める必要性は全くなく、このような石油製品の輸入をも三号要件により排除することは、まさに非関税障壁であり、内外平等原則に反するものである。

以上の点に鑑みても、三号要件を設ける合理性はない。

(4) 品質調整設備は、実際には石油精製設備と一体的設備として設置されるものであることからすると、三号要件も、前記(三)の(3)で述べたのと同様の理由で、石油精製設備と共に品質調整設備を有している既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させ、それ以外の者の新規参入を不可能にするものであり、また、既存精製業者に特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与するものであって、その不合理性は著しい。

(5) 以上のとおり、三号要件はその必要性、合理性が認められず、三号要件を定める特石法五条三号は、職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に違反する違憲無効な規定である。

4  本件処分の違法性

(一) 右3のとおり特石法五条一号及び三号は違憲無効な規定であるから、本件登録制度における登録要件は同条二号に定める二号要件だけとなる。原告は貯蔵設備の所有に準ずる措置を講じている者であり、本件登録制度における登録要件を満たしている者であるから、同条一号及び三号の規定に適合しないことを理由としてした本件処分は違法である。

(二) 仮に特石法五条一号及び三号が違憲無効な規定でないとしても、同法五条の規定は、一号ないし三号の各要件の全部に適合する者でない者の行う特定石油製品輸入事業の登録の申請についてはこの登録をしてはならない旨を定めたものではなく、憲法二二条一項で職業選択の自由が保障されていることに鑑み、特石法一条に掲げる特定石油製品の輸入を円滑に進めるという同法の目的に反しない限り、特定石油製品輸入事業の登録を拒否してはならない旨を定めたものと解すべきである。

国内の品質基準に適合する特定石油製品だけを輸入しようとする者については、一号要件及び三号要件に適合している必要はなく、二号要件に適合していれば必要かつ十分であるところ、この者に広く特定石油製品の輸入を認めることは、特石法の目的に反するものではなく、かえって、その目的とする特定石油製品の輸入の円滑化にかなうものである。原告は、一号要件及び三号要件を満たしていない者であるが、日本における品質基準に適合する特定石油製品(揮発油)だけの輸入を予定しており、かつ、二号要件を満たしている者であるから、被告は、原告の特定石油製品輸入事業の登録を拒否することができないものであり、原告が同法五条一号及び三号の規定に適合しないことだけを理由にしてした本件処分は違法である。

5  よって、原告は、特石法五条一号、三号の規定に適合しないことを理由としてした本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3について

(一) (一)は認める。

(二) (二)は、本件登録制度は特定石油製品輸入事業の登録を受けなければ同事業を行うことができないとするものであることは認め、その余は争う。

(三) (三)の(1)は、第一段部分は認め、第二段部分は争う。

同(2)は、法律上、個々の特定石油製品輸入業者に対して石油製品の生産量の調整をすることを義務付ける定めはないこと、右調整のために行う石油精製設備の稼働及びその前提となる原油の輸入は、原則として、個々の特定石油製品輸入業者の自主的な判断に委ねられていることは認め、その余は争う。

同(3)は、石油精製業を行うについては石油業法四条により通商産業大臣の許可を要すること、石油精製設備を新設、増設、改造するについても同法七条により同大臣の許可を要すること、現在石油精製業の許可を受けている者、特定石油製品輸入事業の登録を受けている者及び特石法の目的が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

同(4)は争う。

(四) (四)の(1)は認める。ただし、三号要件の制定理由は、原告主張のものに限られない。

同(2)は、揮発油販売業法の各規定が原告主張のとおりであること、揮発油を除く特定石油製品について販売段階における法律上の品質規制を行っていないことは認め、その余は争う。

同(3)は、特石法九条の規定が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

同(4)、(5)は争う。

3  同4について

(一) (一)は、原告が二号要件を満たしている者であることは認め、その余は争う。

(二) (二)は、原告が、一号要件及び三号要件を満たしていない者であり、二号要件を満たしている者であることは認め、その余は争う。

4  同5は争う。

三  被告の主張

1  特石法制定の背景事情

(一) 石油は、我が国の一次エネルギー供給の大宗を占めているだけでなく、産業活動を始め国民生活の様々な分野において用いられるなどその用途は極めて広範にわたり、我が国経済の根幹を支える不可欠のエネルギー資源である。しかし、我が国の石油供給構造は、国内に石油資源が乏しく、原油供給のほとんど全量を海外からの輸入に依存している状況にあり、右輸入の大半はホルムズ海峡周辺の産油国からのものである。このように、我が国の一次エネルギーの石油依存度、石油の輸入依存度、輸入原油のホルムズ海峡依存度のいずれをとっても主要先進諸国に比して高い水準にあり、我が国のエネルギー供給構造は極めて脆弱な状況にある。

(二) 各種の石油製品は原油を精製して製造されるのであるが、原油を精製する過程においてそれぞれ一定の比率(得率)で製造されるといういわゆる連産品特性を有し、ある種類の石油製品だけを製造することができないという他の工業製品と大きく異なる特性を持っている。右特性上、ある種類の石油製品の輸入が増大した場合、それに対応して国内需給のバランス上当該石油製品の国内生産量を減少させることになると原油精製量の縮小という事態を招き、そのために他の連産される石油製品の国内生産量の減少をもたらすことになる。その結果、一部の石油製品は供給不足となり、我が国の石油製品全体の安定供給は阻害されることとなる。また逆に、他の石油製品の生産量を維持しようとする場合には、当該石油製品が過剰となり、いずれにしても石油製品の無秩序な輸入は、国民経済に大きな混乱を引き起こすことになる。

(三) 我が国は、石油の重要性及び石油製品の連産品特性に鑑み、石油製品の国内への安定的かつ低廉な供給を確保することを石油政策の最大の課題としてきており、国内の需要動向に適確に対応した石油製品の安定的な供給を達成していくため、戦後一貫して、原油を輸入し国内で精製するという方式(消費地精製方式)を基本として石油政策を展開してきたところであり、昭和三七年には、石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図り、もって国民経済の発展と国民生活の向上に資することを目的とする石油業法が制定されている。石油製品の輸入については、消費地精製方式の補完として重油、ナフサ、LPGに限って行われ、特定石油製品の輸入は行われていなかったが、これは、原油、重油などに比べて、特定石油製品の貿易市場の規模が小さく、特定石油製品の主たる供給源を輸入に依存することは量的な面で制約があって不安定であり、また、価格的にも不安定であるため、国内への石油製品の安定的な供給に支障を及ぼすおそれが極めて強かったことによるものである。

しかるに、近年に至り、中東産油国が輸出用の精油所を持つようになったことなどから、石油製品の輸出が増大し、石油製品貿易市場の規模が拡大することが予測されるようになった。このような事態を受けて、各石油消費国において中東産油国等から石油製品を円滑に輸入することが課題となり、昭和六〇年七月、IEA(国際エネルギー機関。国際エネルギー協定を実施するため第一次石油危機直後の昭和四九年に設置された国際機関であり、我が国を含む先進二一か国が加盟している。)加盟各国の大臣により構成される最高意思決定機関であるIEA閣僚理事会において、石油の安定供給上の支障が生じないよう留意しつつ、加盟各国において石油製品の輸入が円滑に行われるような条件整備を図るべき旨のコミュニケがとりまとめられ、我が国としても、本格的な石油製品輸入を行うための措置を講じることが国際的に要請されることとなり、石油審議会石油部会小委員会で検討を行い、同年九月、同委員会の中間報告において、所要の条件整備を行って揮発油等の輸入を開始することが提言され、これを受けて、石油業法の特別法として特石法が制定されるに至ったのである。

2  本件登録制度について

(一) 特石法は、右1の背景事情のもとに制定されたものであって、その主たる目的は、同法一条に定める「特定石油製品の輸入を円滑に進める」ことにあるが、同法が石油業法の特別法であることから、同法の「石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図り、もって国民経済の発展と国民生活の向上に資する」という目的も、当然に特石法の目的となるものである。本件登録制度は、特定石油製品の輸入に当たり設けられた条件整備措置の一つであって、特定石油製品輸入事業の登録要件を定め(五条)、特定石油製品の円滑な輸入を進める一方、無秩序な輸入を制限することにより、石油製品の安定的かつ低廉な供給を図り、もって国民経済の発展と国民生活の向上に資しようとするものである。

(二) 本件登録制度は、特定石油製品輸入事業の登録を受けた者でなければ同事業を営むことができないとするものであって、憲法二二条一項で保障する職業選択の自由に対する制約であるといわなければならないが、その制約は、右1の特石法制定の背景事情及び右(一)の特石法の目的からも明らかなとおり、石油製品の安定的かつ低廉な供給の確保を図りつつ、石油製品の円滑な輸入を行うという国際協調的視野にたった政策に基づくものであり、高度な経済政策、外交政策、対外通商政策目的による制約であって、積極的・社会経済政策的目的による職業選択の自由に対する制約に属するものである。

(三) 憲法二二条一項は、基本的人権に内在する制約のほか、経済・社会政策実施のために職業選択の自由に加えられる制約を許容しており、右制約の必要性の有無、対象、範囲、手段及び態様等の決定に当たっては立法府に広範な裁量権が認められている。したがって、右制約において具体的に採られる措置については、その内容が著しく不合理で裁量の範囲を逸脱したものであることが明白でない限り、違憲とはならないというべきである。

3  特石法五条一号の違憲性の主張に対する反論

(一) 請求原因3の(三)の(1)について

前記1の(二)で述べたように、消費地精製方式を基本とする我が国においては、ある種類の石油製品が輸入されることになると、国内需給のバランス上、原油精製量を減少して当該石油製品の国内生産を減少することになるが、石油製品は連産品特性を有していることから、他の石油製品の国内生産量の減少をもたらすことになる。この場合、手当てが講じられないと、他の石油製品の供給不足を招き、石油製品全体としての安定供給が害されることになる。特に我が国においては、石油危機以降国民生活安定の観点から、灯油等の家庭用油種の価格について低廉な水準が設定されてきており、我が国の石油産業はその精製コストの大半を揮発油の販売によって回収しなければならない状況に置かれている。しかるところ、石油精製設備を備えない者にも特定石油製品の輸入を許すことになると、当該輸入業者は石油製品の連産品特性を全く考慮せずに最も利潤をあげやすい揮発油の輸入に走り、大量の揮発油の輸入が行われることになるが、そのため我が国の石油産業は揮発油の減産を余儀なくされ、その結果、灯油等の家庭用油種の生産量が減少する事態を招くことになる。しかし、石油製品貿易市場が未成熟であるため、不足する石油製品を輸入によって完全に補うことができないので、需給逼迫を招来して石油製品全体の安定供給が阻害されることは必死であるだけでなく、これと相まって家庭用油種の急激な価格高騰を招き、これによって国民生活、国民経済に重大な影響を及ぼし、また一時的にしろ大混乱が引き起こされることになる。

また、前記1の(三)で述べたように、石油製品貿易市場が十分な成熟をみていない現状においては、特定石油製品の輸入は量的な面に制約があって不安定であるとともに、価格的な面においても不安定であるが、そのため、国際的需給の変動に起因して輸入が行われない事態が到来する懸念が強く、このような事態が生じた場合には、原油を調達し、又は備蓄してある原油を精製して、輸入減少分を国内の増産によって補わないと、石油製品の安定供給が害されることになる。

右の事態を回避するには、特定石油製品輸入業者がある種類の特定石油製品を輸入した場合に、原油の選択、石油精製設備の運転状況の操作などによって、得率を円滑に調整し、他の石油製品の生産量を維持する能力を有し、あるいは、輸入が途絶した場合においても、国内の増産で補う代替供給能力を有していることが必要不可欠である、そして、原則的には、特定石油製品輸入業者が右の各能力を自発的、自律的に時々の需給状況に応じて発揮し、弾力的に生産と輸入との調整が行われることを予定しているのであり、仮に特定石油製品輸入業者による自発的、自立的な調整が行われない結果、石油製品の安定供給が害されるような事態が生じた場合には、後記(二)の各措置を通じて生産と輸入の調整を行って石油製品の安定供給を図ることになるのであり、以上の点に、特定石油製品輸入業者に対し一号要件を求める必要性、合理性があるのである。

(二) 請求原因3の(三)の(2)について

石油業法及び特石法は、通商産業大臣が我が国全体の需要見通しに基づいて石油供給計画を策定することとし(石油業法三条)、石油精製業者及び特定石油製品輸入業者に対し、その生産計画及び輸入計画を策定して同大臣に提出することを求めている(石油業法一〇条一項、特石法一二条二項、石油業法一二条二項)。同大臣は、右の業者から提出された計画を石油供給計画と照らし合わせ、我が国全体の需要見通しに比較して過大・過少の判断を行い、必要がある場合には右の業者に対して計画の変更勧告を行うこととなる(石油業法一〇条二項、特石法一二条二項、石油業法一二条三項)。さらに同大臣は、右業者に対してその事業に関して報告をさせる権限も認められている(石油業法二一条、特石法一二条二項)。このような法律の規定によって、政府は、国内での石油精製の活動状況、石油製品の輸入状況を把握し、ある種類の石油製品が急増して一部の石油製品が供給不足となることが予想される場合には、行政指導あるいは石油業法一〇条二項に基づき計画の変更を勧告することによって、各特定石油製品輸入業者に得率調整を行わせることが可能である。

また、石油製品は国際的な市況の動向に左右されやすく、必ずしも計画どおりに輸入を行うことは困難であり、短期的には輸入計画と実際の輸入とが乖離することも起こり得るが、そのような場合であっても、特定石油製品輸入業者が得率調整能力を有していることから、各業者において輸入状況に応じて自主的に得率を調整し、国内需給に支障を生じないように事前に対応しているのであり、このため現在まで不測の事態が生じていないのである。

(三) 請求原因3の(三)の(3)について

原告は、一号要件は既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させ、それ以外の者の特定石油製品輸入事業への新規参入を不可能にし、また、既存精製業者に特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与するものであると主張するが、特石法は一号ないし三号の各要件に適合する者に輸入を行わせることにより、特定石油製品の輸入を円滑に行うとともに、国内への安定供給を確保しようとするものであり、右各要件そのものが既存精製業者に特定石油製品の輸入及びこれに係る利益を独占させるために設けられた措置ではない。

なお、我が国は、世界の石油貿易量の二〇パーセント弱、自由世界の石油消費量の一〇パーセント弱を占める石油の大消費国であるが、我が国が石油製品の輸入量を増大させることは、石油製品貿易市場が原油貿易市場に比して圧倒的に規模の小さいことから、量的な面での制約が大きく、また、購入行為自体が海外石油製品市況の高騰をもたらし、ひいては国内価格の上昇を招くことになるのであって、海外で生産された石油製品の輸入即国内における石油製品の価格水準の押し下げにつながるものではない。

4  特石法五条三号の違憲性の主張に対する反論(請求原因3の(四)の(2)について)

(一) 特石法の制定は、国際協調主義の立場から本格的に石油製品の輸入を求められるに至ったことによるものであるところ、我が国が特定石油製品の輸入を進めることは国際的公約によるものであり、経済大国としての義務である。しかし、我が国では、石油精製業者に対する石油業法六条に基づく技術的能力の審査とともに、行政指導を通じて工業標準化法に基づく任意規格であるJIS(日本工業規格)制度を普及させ、世界的にみても極めて高品質な石油製品が供給されているのであるが、諸外国において販売されている石油製品には消費者の要求する品質基準を満たしていないものが多く、品質面において不安定な状況にある。しかるに、石油製品の品質を消費者自身が購入時に判断することはその性質上極めて困難であり、我が国の品質基準に適合しない石油製品がそのまま国内に流通すると、例えば揮発油については公害問題や自動車のエンジンを損傷する等の支障を生ぜしめ、輸入製品に対する消費者の信頼を失い、ひいては石油製品の円滑な輸入に支障をきたすことにもなる。

これに対して、特定石油製品の輸入に当たり、品質の規制を行って不適合品の輸入を制限し、適合品のみの輸入を認めるものとすると、品質の異なる外国製品を排除することに終わってしまい、積極的に特定石油製品の輸入を図ろうとする特石法の目的を達成することができない。そこで、我が国が特定石油製品の輸入を円滑に進めるためには、品質を問わず輸入すること自体を認めた上、その輸入業者による品質の調整が行われるようにすることにより、国内の需要として定着させるという方法をとるのが、右目的にもかなう合理的な措置であり、したがって、輸入業者が品質調整設備を有していることが必要となるのである。この点において、三号要件は、積極的・社会経済政策目的のための規制措置である本件登録制度の要件となっているのである。

(二) 原告は、石油製品の品質規制は、輸入・販売業者に対する品質不適合品の輸入及び販売の禁止などの営業活動の内容の規制によるべきであり、また、これで足りるとも主張する。しかし、我が国では、生産段階において法律上の強行的な品質規制は行われておらず、石油精製業者によって自主的に品質基準の確保が行われているのであるが、特定石油製品の輸入において品質適合品の輸入しか認めないとする措置を採る場合には、輸入品についてのみかかる品質適合義務を課することとなり、これは内外無差別問題に反する非関税障壁であるとの批判を受けることは必至であり、現実にも輸入の障害となり、貿易摩擦の原因となることは確実であるから、原告の右主張は失当である。

なお、揮発油については揮発油販売業法により品質規制が行われているが、右規制は、石油業法六条二号、特石法五条三号、さらには石油精製業者に対する行政指導、同法九条に基づく特定石油製品輸入業者に対する品質に関する勧告を通じて、揮発油につき適性な品質が確保されていることを前提とした上で、国内に流通される時点で廃油あるいは灯油等の混入等がされて品質が損なわれることを防止するための国内流通段階における品質確保のための規制であり、輸入の時点において適性な品質が確保されているかどうかという点を問題とする三号要件とは次元を異にするものであるので、揮発油販売業法による品質規制措置があることによって、三号要件が不要となるものではなく、また、この点は、その他の特定石油製品についても同様である。

5  以上のとおり、一号要件を定める特石法五条一号及び三号要件を定める同条三号は、いずれも石油製品の安定供給を確保しつつ、特定石油製品の円滑な輸入を進めるという積極的、社会経済政策的目的達成のための本件登録制度の内容となる登録要件として必要かつ合理的なものであり、憲法二二条一項に違反するものではない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は、石油製品が連産品特性を有するものであることは認め、その余は争う。

石油審議会石油部会石油産業基本問題検討委員会が昭和六二年六月に出した「一九九〇年代に向けての石油産業、石油政策のあり方」についての報告によれば、石油製品の輸入が本格化し、今後もこの方向が加速されていくとの認識の下で、輸入規制の緩和を通じて市場メカニズムを活用し、活性化を図る方向が必要であるとされ、「石油政策の進め方」の章の中で、現在採られている石油製品の輸入、生産、販売に対する強い規制をごく近いうち(一九八八年度まで)に廃止すべき旨指摘しているが、右は、被告が現在行っている石油政策がもはや合理的根拠のない政策であることを示すものである。

2  同2は、特石法が「特定石油製品の輸入を円滑に進める」ことを目的としていること、本件登録制度が特定石油製品輸入事業の登録を受けた者でなければ同事業を営むことができないとするものであって、憲法二二条一項で保障する職業選択の自由に対する制約であることは認め、その余は争う。

3  同3は争う。

なお、被告は、同3の(二)の中で、一号要件により不測の事態が生じていないと主張するが、それは一号要件を設けたことによる成果ではなく、輸入業者の自主的、自律的調整の成果にすぎないものであるから、このことが一号要件の合理性を裏付けることにはならない。

4  同4、5は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(当事者)、2(本件処分)の事実は、当事者間に争いがない。

二  特石法五条一号及び三号の憲法適合性について

1  原告は、本件処分の違法事由として、本件登録制度の内容をなす登録要件を定める同法五条のうち一号及び三号が職業選択の自由を保障する憲法二二条一項の規定に違反し無効であり、違憲無効な右各号に適合しないことを理由とした本件処分は違法であると主張する。

本件登録制度を定める特石法三条の規定は、「特定石油製品の輸入の事業を行おうとする者は、通商産業省令で定めるところにより、特定石油製品の種類ごとに、通商産業大臣の登録を受けなければならない。」というものであり、これは、特定石油製品輸入事業の登録を受けなければ同事業を行うことができないとするものであって、職業選択の自由を制約する規制措置であるところ、成立に争いのない甲第一号証の一ないし六、乙第一ないし第八号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一五ないし第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、特石法が制定された背景事情の概略は被告の主張1の(一)及び(三)のとおりであることが認められ、特石法が、右の事情の下に、石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図り、もって国民経済の発展と国民生活の向上に資することを目的とする石油業法を補完するものとして、特定石油製品の輸入を円滑に進めるための暫定措置を定めたものであることからすると、右暫定措置の一つである本件登録制度は、社会経済政策上の積極的な目的のための法的規制措置であると認められる。

ところで、憲法二二条一項は、国民の基本的人権の一つとして職業選択の自由を保障しており、その保障の中に、広く営業の自由の保障も含まれるが、右は個人の経済活動につき絶対的かつ無制限の自由を保障する趣旨ではなく、「公共の福祉に反しない限り」においてその自由を享有することができるとするものであり、公共の福祉の要請に基づき右自由に制限が加えられることのあることは同項自体の明示するところであるところ、憲法が全体として福祉国家的理想の下に社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図していることに鑑みると、憲法は国の責務として積極的な社会経済政策の実施を当然に予定しており、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なり、社会経済政策の実施の一手段として一定の合理的規制措置を講ずることを当然に予定し、許容しているものと解される。しかして、このような社会経済政策上の積極的な目的のために個人の経済活動の自由に対してされる法的規制措置については、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、その具体的内容及びその必要性、合理性については、立法政策の問題として、立法府の政策的、技術的な裁量的判断を尊重し、裁判所がその合憲性を判断するに当たっては、立法府がその裁量権を逸脱し、当該規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、これを違憲としてその効力を否定することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五八六頁参照)。

そして、先に述べた本件登録制度の目的が公共の福祉に合致するものであることは明らかであるが、これを踏まえ、右に述べた見地に立って一号要件を定める特石法五条一号及び三号要件を定める同条三号が憲法二二条一項に違反するとの原告の主張について検討を加える。

2  一号要件について

(一)  一号要件の制定理由が、請求原因3の(三)の(1)の第一段のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右によれば、一号要件を定めた理由は、特定石油製品の輸入に当たり、石油製品の連産品特性及び石油製品貿易市場が未成熟であることから生じることが予想される一部石油製品の供給不足の事態(以下「供給不足事態」という。)に対処することにあるから、一号要件は、その制定理由において、本件登録制度の目的の一つである石油製品の安定供給の確保に資する要件であるということができる。

(二)  原告は、特石法、石油業法に基づく石油輸入計画の変更勧告及び報告徴収による輸入量の調整、石油精製技術の向上及び市場メカニズムによる石油作業自体の自動調整機能並びに代替エネルギーへの転換等により、あるいは、不足する石油製品を別途輸入することにより、右(一)で指摘されている供給不足事態が生じる可能性はなく、仮にあってもその可能性が小さいものでしかないので、右の事態の発生を前提として一号要件の必要性、合理性を論ずるのは失当であると主張する(請求原因3の(三)の(1))。

石油製品が連産品特性を有するものであることは当事者間に争いがなく、連産品特性とは、各石油製品が原油の精製過程において一定の比率(得率)で製造されるという性質をいい、これはある種類の石油製品のみを製造することができないということであって、他の工業製品と大きく異なる特性である。我が国における石油政策が、我が国の石油供給事情に鑑み、石油製品の安定的かつ効率的な供給を達成するために、消費地精製方式を基本としてきていることは(被告の主張1の(一)及び(三))、先に述べたとおりであるが、消費地精製方式を基本とする石油政策の下において、これを維持しつつ他方で石油製品の輸入を行う場合には、石油製品の連産品特性からくる石油製品製造上の制約だけからしても、一般的に、供給不足事態の発生の可能性があることは容易に推察し得るものである。

さらに、前掲乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、石油製品貿易市場は、近年中東産油国において輸出用製油所が建設されるなど拡大する傾向にあるが、原油貿易市場に比べるとなお極めて小規模、かつ、未成熟であり、依然として石油製品の輸入につき量的な面で制約があるとともに不安定であり、かつ、価格的な面においても不安定であることが認められ、このような石油製品貿易市場の状況下では、特定石油製品の輸入により不足することになる石油製品の供給確保のため、その不足分の供給源もまた輸入に求めることは十全ではなく、また不安定であると推察され、供給不足事態を単なる観念論として排斥することはできない。

そして、原告が主張する石油輸入計画の変更勧告等の措置による調整手段は、石油製品の連産品特性から生じる生産上の制約及び石油製品貿易市場の未成熟性による供給上の不安定性を解消するものではないし、また、不足する石油製品を輸入する方法による調整手段も、石油製品貿易市場が未成熟であることに鑑みると、十分な代替機能を果たし得ないと考えられるから、右各調整手段により供給不足事態の発生の可能性を否定し得ることにはならない。

原告は、また、石油審議会石油部会石油産業基本問題検討委員会が昭和六二年六月に出した報告を引用して、特石法等により石油製品の輸入、生産、販売に対する強い規制を行う石油政策はもはや合理性がないと主張し(被告の主張に対する認否1)、成立に争いのない乙第一二号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第七号証によれば、右報告には、今後の石油政策の進め方として石油産業の生産、販売活動に対する規制緩和を図ることが適当である等の指摘がされていることが認められるが、他方、右各号証によれば、一九九〇年代に向けて石油供給が不安定化して行くことが確実視される状況においては、従前どおり石油製品の生産と輸入の弾力的な組合せによって国内需要に適合した供給が自律的に実現できる体制を平常時から維持しておくことが引き続き必要である旨の指摘がされていることが認められ、右認定によれば、右報告は本件登録制度及びその要件である一号要件の不必要性、不合理性に言及したものではなく、かえって、本件登録制度の維持の必要性を認めているものと解される。

(三)  原告は、次に、法律上においても実際上においても、特定石油製品輸入業者に石油精製設備を稼働させて石油製品の生産調整を実効的に確保し得る体制になっていないから、石油製品の生産調整の必要のために石油精製設備の所有を要求する合理性は見い出し得ないと主張する(請求原因3の(三)の(2))。

前掲甲第一号証の二、三、五及び乙第一号証によれば、一号要件は、消費地精製方式を基本とする石油供給体制を採る我が国においても、国内の各石油企業の石油精製設備の高度化によって石油製品ごとの得率の調整能力が向上していることから、輸出国の輸出に問題が生じるなどして特定石油製品の輸入に支障が生じた場合であっても、国内精製面での調整により安定供給が確保されることが期待でき、これにより絶えず変動する需給事情にも適確に対応し得ると考えられることから、製品輸入と国内精製との弾力的な選択、組合せを自主的に行い、需給の変動に対応し得ることができる輸入主体による輸入を政策的に推進することが望ましいとの石油審議会石油部会小委員会が昭和六〇年九月に出した中間報告における提言を受けて定められた要件であることが認められる。このように、石油製品の輸入に当たり、製品輸入と国内精製との弾力的な選択、組合せは、輸入業者の自主的な判断に基づいて行われることが原則的に予定され、したがって、自主的な選択、組合せを行い得る者を特定石油製品輸入業者とすることにして石油製品の安定供給を図ることが企図されたものであることが認められるところ、このような観点から、特石法においては、特別に製品輸入と国内精製との調整を義務付ける規定を置いていないものと解される。

ところで、輸入業者の自主的な調整というのは、基本的には当該輸入業者の行う製品輸入と国内精製との調整が考えられているものであって、他の同業者との間の調整まで全て自主的に行い得るものでないことは容易に推察できる。しかし、これについては、石油業法及び特石法において、通商産業大臣は、毎年度、当該年度以降の五年間について、原油の生産数量及び輸入数量、石油製品の生産数量及び輸入数量、石油精製設備の処理能力、その他石油の供給に関する重要事項に係る石油供給計画を定め(石油業法三条)、石油精製業者に対しては、毎年度、石油製品生産計画を作成して同大臣に届け出させるものとし(同法一〇条一項)、また特定石油製品輸入業者に対しても、毎年度、特定石油製品の輸入計画を作成して同大臣に届け出させることとし(特石法一二条二項、石油業法一二条二項)、さらに、同大臣に対し、同大臣が石油の需給事情その他の事情により、石油供給計画の実施に重大な支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認めるときは、石油精製業者に対して石油製品生産計画を、特定石油製品輸入業者に対して輸入計画を、それぞれ変更すべきことを勧告する権限(石油業法一〇条二項、特石法一二条二項、石油業法一二条三項)及び右各業者に対してその事業に関して報告させる権限(石油業法二一条、特石法一二条二項)を付与しており、同大臣は、右各規定に定めるところにより、国内の石油精製活動の状況、特定石油製品の輸入状況を把握することができ、また、製品輸入と国内精製とのバランスが崩れ、一部の石油製品が供給不足になるような事態が予想され又は右事態の発生が判明した場合には、右の石油製品生産計画及び輸入計画の変更勧告権を行使し、あるいはこれと同内容の行政指導を行うことにより、各特定石油製品輸入業者間における生産調整等を行う体制を用意していることが認められる。そして、右の体制が、供給不足事態の発生を防止し又は万一同事態が発生した場合にこれを解消する体制として、十分なものであるといい得るかはともかく、特石法の制定により、それ以前の石油業法だけの時と比較し、より強化されていることは明らかである。

以上の点に鑑みると、一号要件による製品輸入と国内精製との調整が実効的に確保し得る体制になっていないとまではいえず、右体制になっていないことを前提とする原告の右主張は失当である。

(四)  原告は、さらに、一号要件は既存精製業者以外の者が特定石油製品輸入事業に参入することを不可能にし、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させるものであると主張する(請求原因3の(三)の(3)の第一段)。

一号要件で求めている石油精製設備の所有及びそれを稼働しての生産調整は、特定石油製品輸入業者が石油精製業を行うことを前提とするものであること、石油精製業を行うには、石油精製業の免許(石油業法四条)及び石油精製設備の新設等の許可(同法七条)も要すること、現在、特定石油製品輸入事業の登録を受けている者は、別紙精製業者一覧表記載の既存精製業者のうち「特定石油製品輸入業者の登録状況」欄に特定石油製品の種類ごとに○印を付した業者だけであって、他に同登録を受けている者がないことは、当事者間に争いがない。

ところで、右(一)ないし(三)で述べたとおり、我が国は消費地精製方式を石油政策の基本としてきているが、右政策を維持しつつ、石油製品の安定供給を害さないで特定石油製品の輸入を円滑に進めるためには、石油製品の連産品特性及び石油製品貿易市場の未成熟性から予想される石油製品の安定供給上不都合な事態に対処する調整能力を備える輸入業者による特定石油製品の輸入を行わせる必要がある、との観点から一号要件が制定されたものであって、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させることを意図して一号要件が設けられたものでないことは明らかである。

また、新規参入の可能性の有無をみるに、前掲乙第一、第一二号証によれば、我が国の原油処理能力(常圧蒸留装置能力)は過剰状態にあり、昭和五八年には一日当たりの処理能力一〇〇万バーレル分の設備削減が行われ、昭和六一年から三年間を目途に一日当たりの処理能力七〇万ないし一〇〇万バーレル分の設備削減が進められていることが認められ、右認定によれば、実際的には、既存精製業者以外の者が新規に石油精製業等の許可を受けることは困難な状況にあると推認できるが、そうであるからといって、直ちに一号要件が法的に特定石油製品輸入事業への新規参入を不可能にすることを意図して設けられたものとまでいうことはできない。

さらに、一号要件が石油精製設備の設置等につき膨大な経済的負担を負わせるものであって、特定石油製品輸入事業への新規参入を阻むとの点については、その前提となる新規参入のために要する資金的な負担につき、成立に争いのない甲第一一号証によれば、既存精製業者である三菱石油の川崎製油所及び水島製油所における昭和六二年三月末時点までの設備投資等の総額が、前者が二一二億二一〇〇万円、後者が三五五億七一〇〇万円であり、右各製油所の設備に高額な投資がされていることが認められる。しかし、一号要件で要求される石油精製設備の内容は、揮発油については、原油常圧蒸留設備、脱硫装置及び石油改質設備又は石油分解設備であり、灯油及び軽油については、それぞれ原油常圧蒸留設備及び脱硫装置であり(特石法施行規則別表第一)、右の原油常圧蒸留設備は、一日当たりの処理能力が一六〇キロリットル(約一〇〇〇バーレル)以上であり、かつ内部の棚段の数が三〇以上であって還流装置が取り付けられているものとされているところ、成立に争いのない甲第八号証によれば、同月末の右各製油所の常圧蒸留設備の処理能力は、川崎製油所が一日当たり五万五〇〇〇バーレルであり、水島製油所が一日当たり二二万バーレルであることが認められ、一号要件で要求される最低基準の石油精製設備に比べるといずれも極めて大規模な設備を有する製油所であって、右各製油所の設備規模から直ちに原告に係る石油精製設備の設置に要する資金的な負担の程度を推認することはできず、他に右の資金的な負担の程度を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、一号要件は、既存精製業者以外の者の特定石油製品輸入事業への新規参入を不可能にし、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させることを意図して設けられたものでないことはもとより、法的に右新規参入を不可能にし、右独占をさせるものと断定することもできない。

(五)  なお、原告は、右主張に関連して、既存精製業者が特定石油製品輸入事業を独占する現状では特定石油製品の輸入が促進される状況になく、これは特石法の目的に反するものであると主張するが(請求原因3の(三)の(3)の第二段)、前掲乙第二号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第九号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、右主張とは逆に、特石法制定以後、特定石油製品の輸入量は増加している状況が認められるから、原告の右主張は容易に採用できない。

また、原告は、一号要件は、一般消費者から安価な外国製品を購入する利益を奪い、既存精製業者に特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与しているとも主張し(前同)、成立に争いのない甲第一三号証には、全油種について国産品の方が輸入品に比べ割高になっているとか、現在登録を受けている特定石油製品輸入業者は既存精製業者に限られていることから、輸入品の価格が国産品と同じ価格となり、その差額は輸入権を持つ既存精製業者に帰属するようになっているとか、特定石油製品の輸入に関し、石油に係る税制、輸入品と国産品との価格差、石油製品の油種別価格差が改善あるいは解消されれば、相当額の消費者余剰が生じ、物価引下げの効果を試算することができるとかなどといった見解が示されていることが認められる。しかし、右でいわれている輸入品と国産品との価格差は、それぞれ異なる手法により算出された価格間の比較によるものであり、その客観性、妥当性を肯認し難いものであるから、右価格差を前提にその差額分が特定石油製品輸入業者である既存精製業者に帰属するとの見解は直ちに採用できないし、右試算についても、種々の仮定等を前提にしてされたものであり、同書証においてもその客観性に限界があることが指摘されているものであるから、右試算結果も直ちに現実のものとして採用することはできず、他に、右主張を認めるに足りる証拠はない。

(六)  一号要件の不必要性、不合理性に関する原告の主張は、以上のとおり、いずれも採用できない。そして、前記(一)及び(二)で述べたところからすると、一号要件の制定理由は本件登録制度の規制目的に適合するものであって、公共の福祉に合致するものであり、一号要件の内容が、右規制目的を達成する手段として著しく不合理であることが明白であるとはいえない。

そうすると、一号要件を定める特石法五条一号は、憲法二二条一項に違反するものとはいえない。

3  三号要件について

(一)  三号要件の制定理由の一つが請求原因3の(四)の(1)のとおりであることは、当事者間に争いがなく、前掲甲第一号証の一ないし六及び弁論の全趣旨によれば、国会(衆参各商工委員会)における特石法の審議において、三号要件の趣旨説明として、右争いのない事実と並べて、国内の品質基準に適合しない特定石油製品が輸入された場合、消費者が購入時に品質を判断することはその性質上極めて困難であり、それが国内に出回れば害悪が発生するおそれがあるが、輸入に当たり品質の規制を行い、不適合品の輸入を制限し、適合品のみの輸入を認めるものとすると、品質の異なる外国製品を排除することに終わってしまい、積極的に特定石油製品の輸入を図ろうとする特石法の目的を達成することができないので、特定石油製品の輸入を円滑に進めるため、輸入すること自体を認めた上、輸入業者による品質の調整が行われるようにすることにより、国内の需要として定着させることにした旨の説明がされて、この点も三号要件の審議上検討されたことが認められ、右認定によれば、右の点も三号要件の制定理由であったものということができる。

成立に争いのない甲第一九号証、乙第二〇号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一四号証の一ないし三、弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立を認め得る甲第一五号証に弁論の全趣旨を総合すれば、我が国では、鉱工業品について、適正かつ合理的な工業標準の制定及び普及により工業標準化を促進することによって、鉱工業品の品質の改善、消費の合理化等を図り、併せて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする工業標準化法が制定されているところ、特定石油製品についても、同法に基づく日本工業規格(JIS)が制定されており、右規格は高品質な基準であること、我が国の石油産業は、行政指導及び自主的判断により、右規格に適合する石油製品を製造し、石油製品を利用する工業製品も、右規格に合った仕様のものが生産、販売されていること、しかし、海外で生産される特定石油製品の品質は、右規格に適合するものもないわけではないが、規格に適合しないものが多いことが認められる。

右の各認定によれば、三号要件を定めた理由は、国内品と輸入品とに品質の差があることを考慮して、品質の異なる外国製品でも輸入を認めることとして円滑な輸入を図る一方、国内の品質基準に適合する製品に改質することによって、品質不適合品の流通から生じる弊害等による安定供給を阻害する事態を防止し、輸入品を国内の需要として定着させることにあると認められ、三号要件は、その制定理由において、積極的・社会経済政策的目的のための規制措置である本件登録制度の目的に適合する要件であるということができる。

(二)  原告は、三号要件が自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するためのものであって、消極的・警察的目的のための規制に係る要件であるとし、この点を前提にして、三号要件の合理性の判断基準につき、他のより緩やかな要件によっては規制目的が達成できない場合であるかどうかによるべきである旨主張する(請求原因3の(四)の(2)と第一段)。

確かに、三号要件を設けるに当たり考慮された事項のうち国内の品質基準に適合しない輸入品が国内に出回れば弊害が発生するおそれがあるという点に着目すれば、三号要件は消極的・警察的目的のための規制に係る要件の性格を有するということができないわけではないが、消極的・警察的目的のための規制と積極的・社会経済政策的目的のための規制とは両立し得ないものではなく、ある規制措置が右の両目的を併有する場合もあり得ることであり、右の点が制定理由の一つであることから三号要件が消極的・警察的目的のためだけの規制に係る要件でしかないということはできず、三号要件については、右(一)で述べたように、右の点は品質に関して石油製品の安定供給を阻害する事由の一つとして考慮されたものであって、それだけが考慮されたものではなく、右の点とその他の制定理由とを総合すると、特定石油製品の輸入を円滑に進め、かつ、石油製品の安定供給を図る積極的・社会経済政策目的のための規制に係る要件であるといえるものであるから、原告の右主張は、その前提を欠き失当である。

(三)  原告は、右主張に関連して、石油製品の品質の確保につき、税関手続上品質のチェックがされる上、揮発油については、揮発油販売業法により輸入品、国産品を問わず品質規制がされており、他の特定石油製品については、国内において法的な品質規制がされていないところ、輸入されるものについてのみ法的に品質の規制をするのは不合理であり、また、販売段階における品質規制により、品質不適合品の流通による弊害防止目的を達成し得るので、右目的達成のために三号要件を要求することの必要性、合理性はないと主張する(請求原因3の(四)の(2)の第二段)。

しかし、三号要件が品質不適合品の流通による弊害防止だけを目的とするものでないことは右(二)で述べたとおりであり、右目的の達成だけを念頭においた右主張はその点だけでも不十分であるといわざるを得ない上、右主張にある販売段階での品質規制措置は、国内流通段階での品質確保を目的とする消極的・警察的目的のための規制措置にほかならないが、このような規制措置は、三号要件に含まれる積極的・社会経済政策的目的のための規制措置とは次元を異にするものであるので、右の販売段階での品質規制措置の存在だけから、三号要件の必要性、合理性を否定することはできない。

(四)  原告は、また、三号要件を設けても、品質調整設備を用いて輸入品の品質を調整させ、国内の品質基準の確保を図らせる規定がないので、同要件を設けた目的を達成することができないと主張する(請求原因3の(四)の(3)の第一段)。

三号要件は、一号要件と同じく、特定石油製品輸入業者自身により自主的な品質調整が行われることを予定したものであり、自主的な品質調整を行い得る者を特定石油製品輸入業者とすることにして石油製品の円滑な輸入及び安定供給を図ることを企図して設けられた要件であるが、輸入業者による自主的な品質調整が不十分で、通商産業大臣が使用者の需要に適合していないと認めるときは、同大臣は、特石法九条により、特定石油製品輸入業者に対し、当該特定石油製品の品質の確保に関し必要な措置をとるべきことを勧告することができるとされていることからすると、自主的調整及びこれを補完するための右勧告により、品質調整をし、国内の品質基準の確保を図り得る、体制が用意されているものということができ、右の確保を図らせる規定がないとすることはできない。

したがって、原告の右主張は失当である。

(五)  原告は、さらに、原告としては、我が国の品質基準に適合する揮発油だけを輸入することを予定しているが、このような輸入業者に対しては品質調整設備の所有を求める必要性も合理性もないと主張する(請求原因3の(四)の(3)の第二段)。

しかし、三号要件は輸入業者の適格に係る要件であり、実際に輸入する特定石油製品の品質が国内の品質基準に合致するものであり、品質の調整が必要でないということだけから、同要件の必要性、合理性がないとすることはできず、原告の右主張も失当である。

(六)  原告は、最後に、品質調整設備は、石油精製設備と一体的設備として設置されるものであることからすると、三号要件についても、一号要件と同様に、既存精製業者以外の者が特定石油製品輸入事業に新規参入することを不可能にし、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させるものであり、また、既存精製業者に特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与するもので、その不合理性は著しいと主張する(請求原因3の(四)の(4))。

しかし、右(一)で述べたとおり、輸入品と国産品の品質が異なること及び輸入の促進の必要から、品質調整能力を備える輸入業者による特定石油製品の輸入を行わせる必要があるとの観点から三号要件が制定されたものであって、既存精製業者に特定石油製品輸入事業を独占させる目的で三号要件を設けたものでないことは明らかである。そして、新たに品質調整設備を所有することが経済的に不可能であるとする事情の存在を認めるに足りる証拠はなく、既存精製業者が特定石油製品の流通市場における独占的利益を付与されているとの点についても、前記2の(五)で述べたのと同様の理由で認めることはできず、原告の右主張は採用できない。

(七)  三号要件の不必要性、不合理性に関する原告の主張は、以上のとおり、いずれも採用できない。そして、前記(一)で述べたところからすると、三号要件の制定理由は本件登録制度の規制目的に適合するものであって、公共の福祉に合致するものであり、三号要件の内容が、右規制目的を達成する手段として著しく不合理であることが明白であるとはいえない。

そうすると、三号要件を定める特石法五条三号は、憲法二二条一項に違反するものとはいえない。

三  本件処分の適法性について

1  右二で述べたとおり、一号要件を定める特石法五条一号及び三号要件を定める同条三号は、いずれも憲法二二条一項に違反するものとはいえないので、これらを違憲として本件処分が違法であるとする主張は理由がない。

2  原告は、憲法二二条一項で職業選択の自由が保障されていることに鑑み、特石法五条は、特定石油製品の輸入を円滑に進めるという同法の目的に反しない限り、同条各号の全部に適合していない者の登録申請でも、これを拒否できないことを定めたものであると主張する(請求原因4の(二))。

しかし、同条の規定は、「通商産業大臣は、第三条の登録の申請が次の各号に適合すると認めるときは、登録をしなければならない。」と定めており、五条各号の全部に適合する者については特定石油製品輸入事業の登録をすることを同大臣に義務付けているのであるが、その反対解釈として、また、前記二の2の(三)及び(四)の認定並びに前掲甲第一号証の一ないし六及び乙第一号証によれば、同法五条各号が、製品輸入と国内精製との弾力的な選択、組合せによって受給の変動に対応し得ること、消費者の利益のため十分な品質確保能力を有すること、緊急時のための備蓄を確保し得ること等の要件を充足する輸入主体により特定石油製品の輸入を推進するという理由で本件登録制度の要件として一号ないし三号要件が定められたものであることが認められることに照らして、同条各号の一つでも適合しない者については右の登録をしないことを定めたものと解される。

そうすると、同条に関する原告の右解釈は採用できず、原告が一号要件及び三号要件に適合しないことは当事者間に争いがないから、原告が一号要件及び三号要件に適合しないことを理由としてされた本件処分に違法はない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木康之 佐藤道明 青野洋士)

別紙精製業者一覧表〈省略〉

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